2020年 07月 01日
万葉集 現代語訳 巻十八4070・4071・4072
4070 一本(ひともと)のなでしこ植ゑしその心誰(たれ)に見せむと思ひそめけむ
※「誰に」〈あなたのほかの誰に〉というように、反語的に用いられている。
※「思ひそめけむ」思うようになったからであろう。〈けむ〉過去の原因推量。
私が一株このナデシコを
植えようとしたそのわけは
あなたのほかの誰かに見せたく
思ったからではないのです
原注
これは、先代の国師の従者の僧、清見(せいけん)という者が都へ帰ることになったので、飲食の用意をして饗宴を催した。そのとき、主人の大伴宿祢家持がこの歌を作り、盃の酒を清見に送った。
※「国師」中央から任命され派遣された僧。
4071 しなざかる越(こし)の君らとかくしこそ柳(やなぎ)かづらき楽しく遊ばめ
※枕詞:しなざかる
※「かづらく」髪飾りとしてつける。
越の国の皆さま方と
このようにしてこれからも
柳を髪に飾って酒の
宴をおおいに楽しもう
原注
これは、郡司(ぐんじ)以下その子弟までの諸人がたくさんこの会に集まった。そこで主人の大伴宿祢家持がこの歌を作った。
※「郡司」郡の役所の行政官。地方豪族の中から選ばれた。
※「この会」どのような会をさすか、未詳。
4072 ぬばたまの夜(よ)渡る月を幾夜(いくよ)経(ふ)と数(よ)みつつ妹(いも)は我(われ)待つらむそ
※枕詞:ぬばたまの
夜空を渡る月を眺めて
どれだけ夜が過ぎたかと
妻は指折り数えながら
私を待っているだろう
原注
これは、この夜、月光はゆるやかに流れ、穏やかな春の風が少しずつ吹いて来る。そこで目に触れるものを題材として、とりあえずこの歌を作った。
※「この夜」未詳。
※目録から4071と同じく大伴家持の歌とわかる。