2019年 08月 21日
万葉集 現代語訳 巻十四東歌3479・3480・3481
3479 赤見山(あかみやま)草根刈(か)り除(そ)け逢はすがへ争ふ妹(いも)しあやにかなしも
※「赤見山」未詳。栃木県佐野市西北方の山かという。
※「草根刈り除け」屋外での逢瀬のために女が準備したことをいう。
※「逢はすがへ」諸説ある。〈逢はす〉は〈逢ふ〉の尊敬。〈がへ〉~の上。
※「争ふ」抵抗する。
赤見の山の草を刈り取り
逢うには逢ってくれたけど
いざというときいやだと言った
あの娘(こ)が無性にいとおしい
3480 大君(おおきみ)の命(みこと)かしこみかなし妹(いも)が手枕(たまくら)離れ夜立(よだ)ち来(き)のかも
※「大君の命かしこみ」官命により異郷へ旅立つことの慣用句。
※「手枕」腕を枕にすること。てまくら。
※「来のかも」〈来ぬるかも〉の東国語形。〈かも〉詠嘆。
帝の仰せを賜って
いとしい妻の手枕を
離れて夜(よる)の明けぬ間に
旅に出て来てしまったよ
3481 あり衣(きぬ)のさゑさゑ沈み家の妹に物言はず来(き)にて思ひ苦(ぐる)しも
※枕詞:あり衣の
※「さゑさゑ沈み」未詳。『日本国語大辞典』に、〈騒々=さいさい・さえさえ〉について〈物が揺れ動き、さわさわと鳴るさま〉とある。
※「来にて」来てしまったので。〈に〉完了、連用形。〈て〉理由。
※「思ひ苦し」切ない。
門出の騒ぎがおさまると
家に残して来た妻に
言葉もかけずに来たことが
とても切なくたまらない
原注
柿本朝臣人麻呂の歌集に出ている。前にすでに見えた。
※巻四・503に類歌がある。