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万葉集 現代語訳 巻十四東歌3479・3480・3481

相聞⑨
3479 赤見山(あかみやま)草根刈(か)り除(そ)け逢はすがへ争ふ妹(いも)しあやにかなしも
 ※「赤見山」未詳。栃木県佐野市西北方の山かという。
 ※「草根刈り除け」屋外での逢瀬のために女が準備したことをいう。
 ※「逢はすがへ」諸説ある。〈逢はす〉は〈逢ふ〉の尊敬。〈がへ〉~の上。
 ※「争ふ」抵抗する。

    赤見の山の草を刈り取り
    逢うには逢ってくれたけど
    いざというときいやだと言った
    あの娘(こ)が無性にいとおしい


3480 大君(おおきみ)の命(みこと)かしこみかなし妹(いも)が手枕(たまくら)離れ夜立(よだ)ち来(き)のかも
 ※「大君の命かしこみ」官命により異郷へ旅立つことの慣用句。
 ※「手枕」腕を枕にすること。てまくら。
 ※「来のかも」〈来ぬるかも〉の東国語形。〈かも〉詠嘆。

    帝の仰せを賜って
    いとしい妻の手枕を
    離れて夜(よる)の明けぬ間に
    旅に出て来てしまったよ

3481 あり衣(きぬ)のさゑさゑ沈み家の妹に物言はず来(き)にて思ひ苦(ぐる)しも
 ※枕詞:あり衣の
 ※「さゑさゑ沈み」未詳。『日本国語大辞典』に、〈騒々=さいさい・さえさえ〉について〈物が揺れ動き、さわさわと鳴るさま〉とある。
 ※「来にて」来てしまったので。〈に〉完了、連用形。〈て〉理由。
 ※「思ひ苦し」切ない。

    門出の騒ぎがおさまると
    家に残して来た妻に
    言葉もかけずに来たことが
    とても切なくたまらない


原注
柿本朝臣人麻呂の歌集に出ている。前にすでに見えた。
 ※巻四・503に類歌がある。


by sanukiyaichizo | 2019-08-21 00:00 | 万葉集巻十四 | Trackback | Comments(0)