万葉集 現代語訳 巻七譬喩歌1342・1343・1344・1345・1346・1347

草に寄せる②
1342 山高(やまだか)み夕日隠(かく)りぬ浅茅原(あさじはら)後(のち)見むために標(しめ)結(ゆ)はましを
 ※「浅茅原」丈の低い茅(ちがや=イネ科の植物)の一面に生えている原。
 ※「標結はましを」〈標結ふ〉領有を示すためにしめ縄を張る。〈まし〉反実仮想。〈を〉逆接。

    夕日は山が高いので
    隠れてしまった あとでまた
    浅茅の原に逢うために
    しめ縄張ればよかったよ


1343 言痛(こちた)くはかもかもせむを岩代(いわしろ)の野辺(のへ)の下草(したくさ)我(われ)し刈りてば〈一に云ふ、紅(くれない)のうつし心(ごころ)や妹(いも)に逢はざらむ〉
 ※枕詞:紅の
 ※「言痛く」人の噂が煩わしいこと。
 ※「かもかも」〈かもかくも〉と同じ。どのようにも。とにもかくにも。
 ※「岩代」和歌山県日高郡南部町の岩代かという。
 ※「野辺の下草~刈る」女性と寝ることの比喩。
 ※「刈りてば」〈て〉完了未然形。〈ば〉仮定条件。もしも刈ってしまったら。
 ※「うつし心や妹に逢はざらむ」〈や〉反語。平常心のままで妻に逢わないでいることができない。

    人がうるさく言うならば
    とのようにでもいたしましょう
    岩代の野辺の下草を
    私が刈ってしまったら


    人がうるさく言うならば
    とのようにでもいたしましょう
    このままあなたに逢わないで
    正気でなんかいられない


1344 真鳥(まとり)住む雲梯(うなて)の杜(もり)の菅(すが)の根を衣(きぬ)にかき付け着せむ児(こ)もがも
 ※「真鳥」〈真〉接頭語。立派な鳥。鷲。
 ※「雲梯の杜」〈杜〉鎮守の森。奈良県橿原市雲梯町の神社(現在の河俣神社)の森。畝傍山の西北。
 ※「菅」カヤツリグサ科の多年草の総称。
 ※「もがも」願望。

    立派な鳥が棲んでいる
    雲梯(うなて)の杜(もり)の菅(すが)の根で
    衣を摺り染めわたくしに
    着せる娘がいてほしい


1345 常ならぬ人国山(ひとくにやま)の秋津野(あきづの)のかきつはたをし夢(いめ)に見しかも
 ※枕詞:常ならぬ
 ※「人国山」未詳。〈人〉は〈他人〉を掛ける。〈人国山のかきつはた〉で人妻の意と解される。
 ※「秋津野」未詳。

    人国山の秋津野の
    よその地に咲く美しい
    カキツバタをわたくしは
    なぜだか夢に見たことだ


1346 をみなへし佐紀沢(さきさわ)の辺(へ)のま葛原(くずはら)いつかも繰りて我(わ)が衣(きぬ)に着む
 ※枕詞:をみなへし
 ※「佐紀沢」奈良市佐紀町一帯の沼沢地。
 ※「葛」山野に自生するつる草。秋に紫色の小花をつけ、つるからは布を製し、根からはでんぷんを
  とる。
 ※「いつかも」待ち望む気持ち。

    佐紀の沢辺の葛原よ
    早くおまえのそのつるを
    引いて紡いでわたくしの
    衣に織って着てみたい


1347 君に似る草と見しより我(わ)が標(し)めし野山の浅茅(あさじ)人な刈りそね
 ※「君」上代では普通男性をさすが、ここでは身分の高い女性と解釈して訳す。
 ※「標めし」領地を示すしるしをつけた。占領した。
 ※「な~そね」禁止。

    あの方に似た草と見て
    私がしるしをしておいた
    野山の浅茅 他の人は
    刈らないようにしてほしい



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by sanukiyaichizo | 2018-03-14 00:00 | 万葉集巻七 | Trackback | Comments(0)