2017年 10月 13日
万葉集 現代語訳 巻五雑歌795・796・797・798・799
795 家に行きていかにか我(あ)がせむ枕づくつま屋さぶしく思ほゆべしも
※枕詞:枕づく
※「つま屋」夫婦の寝室。
家に帰ってこれからどうして
私は過ごせばいいだろう
たったひとりで寝る寝室は
きっと寂しいことだろう
796 はしきよしかくのみからに慕ひ来(こ)し妹(いも)が心のすべもすべなさ
※「はしきよし」〈はしきやし〉と同じ。ああいたわしい。ああ愛しい。
※「かくのみからに」こういう結果になるだけであったのに。
※「すべもすべなさ」どうしようもなく切ない。〈すべも〉は〈すべなさ〉に重ねて強調する。〈すべなさ〉形容詞の名詞化。体言止めで詠嘆表現。
こんな結果になるだけなのに
私を慕ってついて来た
妻の気持ちが哀れに思え
ああ いとしくて仕方ない
797 悔しかもかく知らませばあをによし国内(くぬち)ことごと見せましものを
※枕詞:あをによし
※「知らませば~見せましものを」もしわかっていたら~見せたのに。〈ませば~まし〉反実仮想。
ああ悔しいな こうなることが
もしもわかっていたならば
筑紫の国を隈なく巡り
あなたに見せてあげたのに
798 妹(いも)が見し楝(おうち)の花は散りぬべしわが泣く涙(なみだ)いまだ干(ひ)なくに
※「楝」栴檀。センダン科の落葉高木。四国、九州、沖縄に分布する。五、六月に淡紫色の五弁の小花を開く。
妻の見ていた楝の花は
散ってしまったことだろう
妻を思って流した涙
まだ乾いてもいないのに
799 大野山(おおのやま)霧立ちわたる我(わ)が嘆くおきその風に霧立ちわたる
※「大野山」大宰府の北にある山。
※「嘆く」ため息をつく。
※「おきそ」ため息。
大野山にはあたり一面
悲しい霧が立ち込める
私が溜め息ついて吹かせた
風に吹かれて立ち込める
神亀五年七月二十一日、筑前の国守山上憶良が献上します。
※「献上」原文は〈上〉。たてまつる。山上憶良が大伴旅人に奉ったことを示す。794~799は、山上憶良が妻を亡くした大伴旅人の気持ちになって作った歌とされる。